「もし、あの人との人生を選んでいたら・・・・・・」

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『水曜の朝、午前三時』 蓮見圭一 新潮文庫

 とても洒落た文章でいつも楽しませてくださる方のブログに、チラッと出てきたので気になって読んだ本。表題はわたしが求めた文庫の帯裏に書かれていた文句(画像の本では表ですね)。表の帯には

「こんな恋愛小説を待ち焦がれていた。わたしは、飛行機のなかで、涙がとまらなくなった・・・・・・」児玉清氏、絶賛!! 

とあるが・・・わたしは非常に違和感を感じた。
 
 主人公の直美は1992年、脳腫瘍で45歳で亡くなった。生前、病床でニューヨークに留学している娘あてに4本の遺書ともいうべきテープを吹き込んだ。そのテープには・・・

 A級戦犯として処刑された祖父を持ち、許婚のいる直美はお茶の水女子大を卒業し、大手出版社に勤めるが、家から出たい一心で1970年に開かれた万国博覧会のコンパニオン(当時はホステスと言った)に応募して大阪に行く。そこで同じ万博会場で働く背が180cm以上ありハンサムで歩き方が素敵な数ヶ国語を話す京大の大学院生・臼井と出会う。その頃は同じホステスのソルボンヌを卒業した外交官の娘・鳴海と付き合っていたのだが、お互いに惹かれあうようになる・・・。ある日鳴海から、彼は朝鮮人北朝鮮工作員だ、と知らされる。直美は彼と別れることを決心し、東京に戻り父親のすすめた新聞記者と結婚する。が、直美と仲良くしていた臼井の妹が「水曜の朝、午前三時」に亡くなった、というハガキが届く。それから毎年、妹の命日に臼井と京都で会うことになる。その間、直美には娘が生まれ臼井も朝鮮総連幹部の娘と結婚する。年に一度の逢瀬。
 わたしには直美が臼井と別れた心の痛手を、結婚によって忘れようとしたことがどうにも解せないのである。まぁ、作者の考えなんだから仕方がないが、果たして直美のような教養も美貌もある女性がそんなことするのかな、と非常に疑問に思った。物語の前半は面白いが後半は・・・。自分が脳腫瘍の病になったのも、罰があたった・・・と考えるような描写も「えっ」と思う。
 新聞記者の夫が娘をお受験させることを望み、親子で臨んだが落ちてしまった。夫は何故落ちたか理由がわからない。娘が「お父さんには言ってないけど試験の時、お母さんの普段の様子を絵に描きなさい、と言われてウイスキーの瓶4本に囲まれているお母さんを描いたよ」という場面では思わず笑ってしまった。直美は心の痛手をお酒によって癒してもいたのである。これもまた、何だかなぁ・・・と思う。

 ということで、本の内容と紹介する帯の文句は必ずしも一致しないことがわかった一冊でした。